効果音作成 4
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5分近くのオーバーをどう克服していくかである。
何処かをカットしなければいけないのだが、それを判断しなければならない。脚本家であり放送作家の井田さんの登場である。眉間に皺を寄せながら、紙か何かに全体の流れを再構成している。程なくして井田さんがカットするシーンを知らせてきた。
前半の逃避行部分を一部カットすることでバランスをはかろうというのである。私はそこをカットしてしまうのは余り気が進まなかった。何故かというと、映画“原爆の子”を観ていたせいかもしれないが、「もうたくさんだ!」というくらいシーンに重みがあった方がいいと感じていたからだ。被爆体験者や戦争体験者にとっての忌まわしい記憶の裏側を、現代の人々に伝えていくためには半端な描写では通じないのではないかという思いがあった。前半をカットして証言を増やすことでバランスがとれるであろう事は想像できたが、後半へ向けてのタメが軽くなるような気がしてならなかったのである。
金子さんが山口に帰り着いてからの苦悩の日々が後半描かれて行くわけだが、いかんせん時間のオーバーがたたって後半部分をそうとうカットしてしまっていた。ディテールをカットしてしまうことで金子さんの内面の苦悩が伝わりにくくなってしまっていると感じていた私は、それならばいっそのこと前半部の逃避行のウエイトを強くしておいた方が良かったのではないかと感じていたのだ。
まあ、私の考えが未熟なのかもしれない。そこは素早く修正することにした。部分的なリテイクを繰り返していく。
通常よりもはるかに早いペースで仕上がった。
最終視聴が始まった。広くないラジオスタジオの副調に10人以上の人間が押し掛けてきた。みんなご機嫌である。今まで一度も覗きに来なかった連中の姿もある。どんな形であれ興味を示してくれるのは有り難い。
私は視聴や試写の時には、「もう結構」といつも感じる。制作過程の中で入り込みすぎるせいか、飽きてきているのだろうか。あと、自分の荒らばかりが気になってしまう。他の連中が、「全く気にならないよ」というところまで気になって仕方がない。こうなると殆ど職業病のレベルである。このことが果たしていいことなのかどうかはわからないが、しばらくすると、また何かを創りたくなってくる。クリエーターとはやっかいなシロモノだ・・。
視聴も終わり副調の中に拍手が響きわたった。
「すばらしいよ!特に最後のコメントのタメがよかったね。これ以上無いという感じだよ」
「いや〜、村上ちゃん。音、大変だったでしょう?」
スタジオに居るみんなが満面の笑みを浮かべている。私とディレクター田中正は「やれやれ・・」といったところだ。
約1ヶ月にわたって続いたFM夏期特集もようやく終了を向かえることが出来た。バタバタと撤収作業が続く中、打ち上げ場所の話が来た。その瞬間、左の写真のある人の姿が浮かんだのは言うまでもない。それは、どうのこうのと言いながら、終わってしまえばこっちのもんだと言わんばかりのくせ者の姿であった。
ラストシーン。
停車する機関車の中に金子さんは居る。その機関車は金子さんの意志とともに走り出す。走り出した機関車は延々と闇の中に消えていく。原田大二郎さん演じるところの金子弥吉の「お〜い!」と叫ぶ内面の声は、一体、誰に訴えかけた声なのだろうか?果たして、証言のテープも蒸気機関車も時代の流れの中に風化していくのか?
闇の中から、かすかに機関車の汽笛の音がきこえる・・・。
このコーナーは平成10年に作ったものをリメイクして掲載しました。
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