効果音作成 2


6mmオープンリールテープデッキ4台を駆使して音を束ねていく。作り込まれた効果音が3台に配され、音声助手の川井さんが台詞用の1台を使用。私は効果音の2台を操作する。あとの1台は助手の大野まゆみがテープだしをする。

テープ出しとは、6mmテープデッキの再生ボタンを押してアッテネーターというボリュームつまみで音のバランスをコントロールすることだ。一口にテープだしといっても簡単なモノではない。出すべきタイミングで音を出し、的確な音量レベルをコントロールしなければならない。ラジオドラマの場合、それが1台につき30から40カ所にも及ぶ。1つでも間違えるとNGになる。

まだまだ余裕のない助手の大野は台本に目が釘付けになってしまう。台本に意識が釘付けになってしまうと、テープの音出しのタイミングや微妙な音のコントロールが甘くなってしまう。その結果、何度もNGを出してしまうことになる。なにも役者だけが芝居をしているわけではない、実は音も芝居をしているのである。

例えば、ある人がコップ一杯の水をグイッと飲み干したとしよう。そのコップを目の前のテーブルもしくはカウンター等におく音をイメージしてみよう。飲み干してからコップをおく音が聞こえる間での時間で色々な情報が聴き手に伝わっていく。すぐに置くのとゆっくり置くのでは意味が変わってくるのである。また、置くときの音の強さでも意味が違って聞こえてくるのだ。

ラジオドラマを聴いていると、出演者のクレジットに出てこない脇役のさらに脇のようなヒトの声が聞こえることがよくあるが、たいていがディレクターや制作スタッフの声だったりする。我々もご多分に漏れずガヤに加わる。【ガヤ】という言葉は飲み屋や街頭で聞かれる「ガヤガヤした音」のことを指している。

大体、初めのうちは誰もやりたがらない。仕方がないので効果部が先陣をきる羽目になる。だから、殆どのドラマの何処かしらに効果マンの声が入っている。まったくヒッチコック顔負けである。広島駅の「ひろしまあ、ひろしまあ」というアナウンスを私がやった。

「ひろしまあ、ひろしまあ」というアナウンス

続いて、音声サブの川井さんが「水をくれ〜」と迫真の演技。あまりの狂気に演出の田中が、「デニーロの狂気に迫るぜ!!」と言いながら死にそうな笑い声を上げた。

「水をくれ〜」という迫真の演技

これを見た音声の鈴木ちゃんが、男のくせに子供を救ってくれと叫ぶ母親の声をやった。少しテープのスピードを上げてやる。これが異常にはまって、しばしスタジオが笑いの洪水と化してしまった。

子供を救ってくれと叫ぶ母親の声

放送では残念ながら鈴木ちゃんと川井さんのシーンはカットされてしまいました。

こうやって音を作り込んでいくうちに、全体の尺(時間の長さ)がどんどん長くなっていく。放送枠が50分のドラマなのに台詞と証言で45分以上ある。頭とおしりのクレジットをあわせるととてもじゃないが尺がオーバーしてしまう。

尺がオーバーすると全部放送出来なくなるので、どこかをカットしなければならなくなる。ドラマの部分は極力カットしたくない。自然と証言の部分がカットされていく。最初11カ所あった証言がたった3カ所まで減ってしまった。内心、大丈夫かいな?と心配したが、中途半端に証言を使うくらいなら、いっそドカンと減らした方がドラマとしての流れがスムーズになると思った。

ドラマは1日10分とよく言われる。ドキュメンタリー等は45分サイズでも2日あればどうにかなるモノだ。しかし、ドラマはそうはいかない。そこにあるものを切り取ってくるのと、作り込んでいくのでは自ずとその作業工程は違ってくるモノである。