効果音作成 1
今回のラジオドラマ、効果音制作の中でまず最初にぶち当たる壁は『原爆の音』である。原爆が無ければ話にならないので当然と言えば当然だ。

振り返ると、過去に色々な原爆のイメージ音が作られてきましたが、自分としてはあまり似たような音にしたくはなかった。しかし、『ピカドン』と呼ばれた原爆の爆発イメージを音でどう表すのか。現実には『ピカ』の部分には音が無いと思う。実際、資料VTR等を見ても音はありませんよね。発想の一つに「いっそ何も音を作らない」という考えもあった。しかし、それでは分かる人にはいいが、何が起こったのかさっぱり分からない人も出て来るであろうことも容易に想像できた。

“原爆・・一瞬にして圧力がかかるイメージ〜電磁波〜異様な地響き。”

最初にイメージしたものである。これをたたき台にして何処までジャンプ出来るのか?“ピカ”の部分はいくつかの音を合成して、LからRに瞬間的にジャンプさせた。

ピカのイメージ音

“一瞬にして圧力がかかるイメージ”の部分、これが色々試すが上手くいかない 。水中に入った瞬間に感じる例の感触を手がかりに音を合成していく。“電磁波”というのはあくまでイメージで書き記したもので実際には作らなかった。“異様な地響き”は原田さんの芝居を受ける形で使うことにする。

イメージとはあくまで主観的なものである、と思う(笑)。ということはイメージ音とは主観的な情報でもあるのだ。作り手の主観を第3者がどう客観的にとらえるのか?客観的にとらえたモノを個々が主観的に感じる・・。書いていてワケがわからなくなってきた(汗)。

生音関係に行きましょう。以下のようなシチュエーションが想定されています。

『水がほしい!道に横たわる亡骸が身につけた水筒を取り、水を飲もうとするが一滴もない。』

水筒の音に注目していただきたい。なにせ、昭和20年である。今時の水筒は使えない。ト書きには『水筒を飲む』等と一言書かれているだけだが、音にするのは簡単ではない。焼けただれた水筒の蓋を開けるところも注意が必要である。マイクの前で単純に水筒を開けてもとてもそんな感じは出ないので、ガムテープを剥がすときのネチッとした音を水筒のキャップを回す時に同時にやってみる。当然、シーンの意味合いも考えながら芝居をしなければならないのだが、二人でタイミングを計りながら何度か繰り返すうちにそれらしい音が出来た。

水筒を取り、水を飲もうとするが一滴もない

ジャガイモをすり下ろす音。これは実際に本物のジャガイモを買ってきた。すり下ろすオロシガネは金物屋で昔ながらのオロシガネを購入した。助手の大野まゆみがブースの中で何度かやってみる。何かたどたどしい感じだ。くせ者の井田さんに、
「毎日食事の支度をしなれている奥さんがやっているにしては、あまりにも下手くそすぎる」
と思いっきり突っ込まれた。もうすぐ主婦になる大野まゆみも立つ瀬がない。

ジャガイモをすり下ろす音

 『機関車がドロドロと動き出す』というト書きを見て、「井田のおっさんの挑戦状だ」と思った。“ドロドロ”という言葉がくせ者だ!

脚本家のイメージを越える。ジャンプする。このときに、また新たなる作品が姿を現してくる。これは何としても字面のイメージを越える物を創らなければならないという思いが、私の中でメラメラと燃え上がった。

まず、車輪の内側の輪郭と外側の輪郭を別々に作ることにした。写真の効果道具でレールの上を動き出す素材を作る。これが内側。外側には局内にあるでかい台車を持ち込んで車輪を動かしてみたり、缶ジュースに詰め物を入れて転がしてみたり、消化器を転がしてみたりと試行錯誤を繰り返す。そうやって出来た素材を一つずつEQ(イコライジング)し、テープの速度を10分の1位迄下げて合成したりして形にしていく。

動き出すときの車体の軋みを作る。鉄の扉を開くときの音や線路を通過するときの軋んだ音を素材にして、イーブンタイドのH-3000というウルトラハーモナイザー(左の写真)でエフェクトする。

あとは、汽車の連結音や動きだしの音を合成して出来上がりである。簡単に書いてはみたが、結局はタイミングとバランスがものをいう。

機関車がドロドロと動き出す