台詞収録 1
台詞録り。

技術担当者の鈴木ちゃんの出番だ。年齢は若干20台前半とまだまだ若い。FMステレオドラマを任され少々緊張気味である。しかし、根性はなかなかのもので言うべき事はハッキリと、マイクアレンジなどもキビキビとこなす。

ステレオで台詞を収録する場合、モノラルとは違い定位というものが発生する。左下の写真を見ていただくとわかるが、時計の真下に白い紙が貼ってある。そこには数字で【3】と書かれているがお解りになるだろうか?【3】とはセンター定位を意味する。レフト側のスピーカーが【1】。ライト側が【5】になる。当然、【1】と【3】の間が【2】、【3】と【5】の間が【4】となるわけで、【1】から【5】が視覚的な定位のアドレスとして表示されているわけだ。

スタッフはこの【1】から【5】というアドレスを基準に定位を設定していく。

例えば、二人の役者の板付きの芝居(お互いに静止した状態)を収録する場合、役者Aを【2】、役者Bを【4】と仮に設定する。設定の基準はその時々によって曖昧な部分もあるが、あるシーンに『広大な大地』というものがあると、そのシーンを表現するときとの落差を計算にいれなければならないだろう。そうすると、板付きの芝居が2:4ではいささか二人の距離が離れすぎているように感じる。だから2.5:3.5という位置関係に修正する。2.5というのは【2】と【3】の中間と言うこと。まあ、板付きの芝居も色々とあるので恋人同士がベッドの上で『ピロートーク』をするときなどは、二人とも限りなく【3】に近い状態でしょうか。これらはあくまでセンター定位つまり【3】を基準にしての事であって【5】を基準にして考えるという場合もある。

すべては相対的なバランスなのだ。多分、原理は音楽レコーディングと大差ないと思う。

マイクセッティングは業界で言う【XY】方式をとっている。右の写真のマイクセッティングである。何故【XY】なのか私にもよくわからないのだが、見た感じをそう言っているのだろうと理解している。この【XY】方式を使用する事で役者は対面方式で台詞を喋ることが可能だ。難点なのは、マイクが通常のセッティングに対して真横を向いているため演技中に上を見上げたりして台詞を喋ると定位がぶっとんでしまうことだ。

本来なら台本を掲載したいところだが著作権の関係上ご勘弁願いたい。そのかわり、ディレクター田中正が書いたおおよそのアウトラインを要所要所に載せていきたい。

演出ノート:

金子弥吉さんは広島で被爆した当時、44歳。戦争末期、兵隊にとられていない彼は、おそらく身体的欠陥があった。金子と小林、落ちこぼれ二人が1945年8月6日に広島駅に降り立つ。戦争末期、沖縄まで敵が攻めてきている。もしかしたら、自分でも兵隊として聖戦に参加できるかもしれない、そんな思いが金子にはある。自分が<落ちこぼれ>であるという意識を払拭できるかもしれない。そんなとき、被爆する。