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![]() 幸田時計店はその計測係を3代にわたって務めている。ご主人は懐中時計で時刻を確認し、出発を太鼓うちに知らせ、2人の息子さんがタイムを計っている。 決勝点では次々と山がゴールしていた。ゴールするとT祝いめでたUとT博多手一本U。殆ど間髪いれず自分の流れに帰っていく。報道関係者、野次馬の群がひしめきあう中、我々は立っているのがやっとだった。
![]() 神社の境内では15人程の楽士たちによって“鎮め能”が行われていた。“追い山”で荒ぶった魂を鎮める儀式。雅な笛や鼓の音が辺りを包み込む。そのゆったりとした荘厳なる音色は、行事が終わり興奮さめやらぬ人々の心を平静に導いていく。 その余韻をかき消すように突然サイレンの音が響いた。消防車4台が細い路地に入っていくのが見える。空を見ると真っ黒な煙が上っている。火事だ。機材を抱え現場へ向かった。肉体の限界を超えたはずの体が、機材の重さが気にならないほどよく動く。火事場の馬鹿力である。 現場に着くと火はすでに鎮火していた。 現場は西流れの山小屋のすぐ近くであった。法被を着た長老達が消防車の退車の邪魔にならないように野次馬の人垣を整理している。
「どいちゃらんかー!山がはいられんめーが!!」 他の長老達も水をかけだした。否応なしに野次馬達は退く。なんとか消防車4台が退車し、山が山小屋に入れた。 山を囲んだ男達が一斉にT祝いめでたUを合唱する。そして、T博多手一本U。山の元締めの挨拶の後いよいよT山くずしUに移る。 T山くずしUとは、山を飾った人形や装飾品をその場で壊し、台座だけの山を櫛田神社に返還し、崩された人形を山の男達皆で分け合って縁起物として家に持ち帰るというものだ。 挨拶も終わり男達は元締めの合図を待つ。「はじめ!」の合図で一斉に男達が山にかけ登る。人形の頭の部分を我先に奪おうと乱闘が始まる。山から蹴落とされる者、殴り合って血を出す者、それを制止しようとする者、壮絶な乱闘が繰り広げられている。観客も「やれやれー!」とヤジを飛ばし、乱闘は益々エスカレートする。
しっかりと固定された人形がものの5分程ではぎおとされた。元締めの終了の合図とともに台座だけの山が男達によって空高く掲げられる。そして「いやー!」のかけ声で山が再び動き出し、櫛田神社へ走っていった。 普段の静寂を取り戻した櫛田神社。そこには、さきほどまで殴り合っていた男達が、来年の山笠でまた会おうと堅い握手を交す姿があった。 もうすでに来年の山笠は始まっている。
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