熱い!今年の山笠は特に熱い。そう感じたのは我々だけであろうか。それとも早々と到来した夏がそう感じさせるのか。
午後一時。容赦なく紫外線が降り注ぐ中、我々は山笠の待機場所であるエレデ寿屋前の大博通りに着いた。呉服町交差点から見る明治通りは、交通規制で車が全く走っていない。いつも見慣れたそれとは違う風景が目の前に広がっている。その道路の先でユラユラと漂う陽炎。十分に熱を吸収し、今にも溶けだしそうなアスファルトの上を子供達は我関せずとはね回る。
通りの両側には、我々のようなにわかカメラマンや約50メートルおきに設置されたテレビ局の中継台、偶然居合わせた商社マン、そして観光客の群・・何千人、いや何万人の黒山の人だかりだ。
エレデ前の待機位置に接近してみる。何か和やかなムードすら漂っている。今日はいつものような緊張感がまるで感じられない。記念撮影を楽しむ山の男達を見て、いささか拍子抜けすらした。
我々はスタート地点であるここと、ゴールの福岡市役所付近のアクロス福岡という2つのポイントを押さえることにした。各流れがエレデ寿屋の前に集結している。それを細見・森クルーが狙う。村上・武田クルーはアクロス福岡付近で山の喧噪を待ちうける。
舁き山が大勢の人々の前を走る“集団山見せ”。
昭和37年、福岡市の要請で始まったこの行事は山のお披露目会のようなものである。呉服町交差点をスタートした山は、那珂川に架かる西大橋を渡りアクロス福岡まで一直線の道を進んだ後、左折して約50メートル、福岡市役所前で表敬訪問を行う。全長約2キロの行程である。
普段は車がひっきりなしに通る大通りを、この日だけ、那珂川を越えて山がやって来るのである。
アクロス福岡方面の我々は音を録るポイントを探す。見物人のざわめきが肝心の山の音をかき消してしまわないようにしなければならない。あまりの人の多さにカメラマンとはぐれてしまった。
突然、ドーンと花火があがった。午後三時半、一番山笠・千代流れが打ち上げ花火の合図とともに出発。七番山まで五分刻みで約二キロ先の福岡市役所を目指す。
アクロス福岡の交差点を曲がって、まず最初に姿を見せたのは、千代流れの子供達である。「オイサ、オイサ」とかわいらしいかけ声をかけながら走ってくる。周りから拍手がわく。手を振りながら走る者。一生懸命かけ声をかけながら走る者、友達と話しながら走る者、無邪気な子供達の笑顔は我々見物人の笑顔を誘う。続いて山を舁く男たちの声が聞こえてきた。
陽炎の中から山の軍団がやって来る。勢い水の水しぶきは、さながら荒野の砂塵の舞だ!
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伝統の舁き山がいつもよりゆっくりとした足どりで、近代都市の高層ビルの谷間を駆け抜ける。
1587年、豊臣秀吉によって行われた“太閤町割り”。福岡市の美しい町並みは、この区画整理の名残である。福岡の街が加速度的に進歩するなか、博多祇園山笠は伝統を脈々と受け継いでいく。
シャネルやエルメスといった高級ブランドが並ぶウインドウの横を、昔ながらの山の軍団が駆け抜けていく瞬間、その対照的な構図が都市の風景の中に、ある種のカタルシスを産む。

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